プロローグ:~超黒字人材を狙い撃ちして辞めさせない方法~
なぜウチの社員は会議で何も発言しないのか?
「うちの従業員は会議をやってもただ黙って座っているだけです」
「正直何を考えているのか全くわかりません」
「何度指導しても同じ失敗を繰り返すだけです」
中小企業の社長から良く耳にする言葉です。
会議で社員がどんどん積極的に発言してくれたり、貴重な意見を言ってくれれば社長はこんなに嬉しいことはないでしょう。ですが多くの中小企業、とりわけ従業員50名以下規模の小さな組織においては人の問題というのは大きな経営課題の一つと言えるでしょう。
そのような状況に対して社長をはじめ経営陣はあれこれと対策を取り、時には予算をつぎ込んで改善策を講じていることと思います。しかし人の問題というのは目に見えた成果が表れにくく本当にこれで良いのか、間違っているのではないかと暗中模索の中で試行錯誤を繰り返し、せっかく始めた人事政策を途中であきらめてやめてしまうということも珍しくないようです。
はじめに一つお伝えしておきたいのは人に関わる問題というのは「非常に根気がいる」ということです。多少の紆余曲折があってもあきらめずに長期的な目線で関わってゆく覚悟が必要です。ただそのためには施策を実行するためのガイドラインとなるものが必要です。
中小企業の社長は自分で何役もこなさなければいけない立場でもあるので人の問題だけに特化して経営を進めてゆくわけにはいかないでしょう。このブログでは人事政策に関してできるだけわかりやすく解説するとともに実践で活用できる沢山のシートの応募方法を巻末にご用意しています。
まず序章では人事政策に関する基本的な考え方をお伝えし、その後採用や人事評価制度の具体的な仕組みづくりについて解説したいと思います。
中小企業の人事施策は育成マインドが基本
中小企業が人事政策を設計して行く上で大切なことは従業員をどのように育てていくかという育成マインドを基本として考えていくことです。なぜなら中小企業は大手企業に比べて人的資源のハンディキャップはかなりあると考えるのが自然なことであり既存の従業員を含めて新規で獲得した人材についても大切に育ててゆくという考えなしには会社の質的成長も量的成長もなしえないからです。
中小企業の経営者の中にはいまだに古き良き時代の経営思考から抜け出せずにいる経営者も少なくないようです。その背景には経営者自身が丁寧に育てられたという経験よりも見て覚えろという価値観や一度谷底に突き落とされるようないわば古風な経験をしてきた経営者が多いことも背景としては考えられます。
ちなみにある大手上場企業の社内アンケートによれば上司の部下に対する接し方が何に起因しているかという質問に対し上司自身が過去に自分の上司にされた育成スタイルを継承していることが多いという結果も出ています。
つまり社員の育て方というのは経験や価値観に裏打ちされたスタイルが発揮されやすいという結果でもありその積み重ねが会社の風土を作っていくといっても過言ではありません。
貴社がこれまでの人事政策に関する価値観を変えようとするならば、どこかで明確な楔を打たない限り、その風土は一朝一夕では変えられるものではありません。それにはただ単に制度を変える新しいやり方を導入するだけではなく根本となる価値観やマインドを変える必要があります。
まずはしっかりとした「人を育てる」という育成マインドベースにおいて人事政策の設計を考えることがとても重要です。
そもそもなぜ出来る社員から会社を辞めてしまうのか
「期待しているできる社員からやめてしまうんだよなあ」
「将来の幹部にと思っている人ほどやめてしまうのは何故だろう」
中小企業の経営者の嘆きとも言える本音ですね。ではあなたはなぜできる社員ほど会社を辞めてしまうのだと思いますか?
・仕事にやりがいが感じられない
・与えられている裁量が狭い
・成長できる機会を感じられない
・認められている、報われた感じがない
人が会社を辞める理由はいろいろあります。人材サービス会社のアンケートを見ても「やめる理由ベスト5」などと言う結果を目にすることも多いと思います。
ただここでぜひ抑えておいていただきたい考え方があります。アメリカ臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグ氏の理論によると『給料や休日日数など、いくら目先の不満要因を潰したところで、それは人を会社につなぎとめる理由にはならない』そうです。
例えば衛生要因と言われる会社の方針や給与、職務環境などの不満要因を潰したところで不満がある状態が特に不満はない状態になるだけです。
一方で動機付け要因と言われる仕事のやりがいや裁量、昇進、成長などの要因をフォローすることで働く上での満足度が上がり会社で働くことが動機付けられるということです。
賃金アップが叫ばれる今の時代、給料のアップというのは欠かせない要因かもしれませんが長く働いてもらうためには処遇の改善だけではなく社員が仕事に対して動機づくような人事施策が求められる時代になっています。
中小企業の好循環モデル(採用の仕組化→人材育成の制度化→育成風土の醸成)
ここまで育成マインドの大切さや動機づくような人事施策が重要であることをお伝えしてきました。それらのことを踏まえて中小企業の人事政策をどのように設計するかを具体的に考えてみることにします。
1.採用の仕組化
まずは採用の仕組化です。より詳しい内容は第一章で述べるとしますが仕組化とは簡単にいえば手順書を作ると言い換えるとわかりやすいかもしれません。
多くの中小企業では人を採用するとき、まず何から始めればよいかが決まっていません。求人票を書いて広告会社に申し込んだり、ハローワークに出向いたりするだけがスタートではありません。社会全体が人手不足の日本ではもはや単純に求人票を書いて出すだけでは簡単に人は集まりません。
求人票を書く前にまずはしっかりとした下準備が必要なのです。その下準備の段階から求人票を出し面接をし採用をするまでの一連の流れを決めて会社全体で共有し実施することが仕組化です。
2.人材育成の制度化
人を育てることが容易ではないことは経営者の皆様自身が一番よくご存知のことだと思います。ただここまでも何度もお伝えしているように人を育成するマインドを持つことが人事政策を設計する肝になります。
中小企業の人材育成の現状を見ていると経験と勘で実施している企業がとても多いように思います。経営者はさまざまな苦難を乗り越える中で人を見る目を直感的に養ってきているのである程度は勘と経験で乗り越えることができるかもしれません。
ただある程度、会社が組織化されてくると経営者自身がすべての従業員に対してあれやこれやと口を出すことが難しくなります。つまり従業員の育成を幹部や上長に任せなければならないのです。しかし幹部や上長たちに「しっかり従業員を育てろ」と指示を出しただけでは人材育成とは何をどうすればよいのかわからず右往左往してしまうのが現状かもしれません。そこで人材育成についてもしっかりと制度としてやり方や手順を言語化し社内で共通認識を持つ必要があるでしょう。
その方法こそが人事評価制度なのです。ですが人事評価制度というと賞与や昇給を目的として制度設計するイメージを持っている方が多いと思います。私がお勧めするのは人材育成を目的とした人事評価制度です。このブログではそれを『人材育成型 人事評価制度』と呼ぶことにします。
人材育成型の人事評価制度について詳しくは第二章でお伝えしますがなぜ人事評価制度が人材育成に役立つのか簡単にお伝えしておきます。人材育成型の人事評価制度は中小企業が最も効果を発揮しやすいフィールドと言えます。人事評価制度は難しいという意見も聞きますが実は大手よりも小回りの利く中小企業の方が会社の事情に合わせて設計がしやすいのが現状です。
中小企業では大手企業ほど業務の内容が多岐にわたることはありません。したがって業務内容の評価基準を考えるうえでもより現場の事情を制度に反映しやすいメリットがあります。そうすることで制度そのものが社員にとっては自分事になりやすく、目指す方向性を上司と共有できる上、社員の内発的動機づけに繋げることができるので社員の成長につながるという背景があります。
3.育成風土の醸成
良い人を採用できる「採用の仕組み」と採用した人を長い間働いてもらえるよう育成する「人材育成の制度化」を形にすることで会社が人を育てる風土が出来上がってきます。ここで大切なのは仕組みや制度を作るだけではなく、どのように運営して行くかが大きなポイントとなります。
「採用の仕組み」も「人材育成の制度化」も運営するのも対象となるのも人です。人と人との関わりが企業の風土を作り上げます。
組織学習の第一人者であるなダニエル・キム氏が唱える「組織の成功循環モデル」という理論があります。それによると組織が成果を上げるうえで、いきなり「結果」を求めてしまうと「関係」が悪化し「思考」が鈍り「行動」に表れて「結果」が出せなくなる悪循環になってしまうということです。
そこでまずはお互い尊重し合う「関係」を構築することで、質の高い「思考」を生み出し、「行動」に移すことで、「結果」がついてきて、「関係」がさらに強まる好循環に入っていけるということです。
つまりダニエル・キム氏によれば「成果を上げる組織」を作るにはまず「関係の質」を高めることが重要だということです。ただここでいう「関係性の質」とは、ただ仲良くなれば良いという性質のものではなく企業理念や組織の方向性を理解した上での「関係性」であることは抑えておきたいところです。
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