中小企業ならではの採用の仕組化を図る
3年後組織図を作る:まずは近未来の理想を描く
ここからは自社の採用の仕組みを具体的にどのように構築して行くか考えていきましょう。何事も策を打つ前に必要なことは現状をしっかりと把握し少し先の未来を描いてその差異を明確にし理想に向かって行動計画を立てる事が大切です。
では自社で採用を行う上で現状を把握し少し先の未来を描くとはどういうことなのでしょうか。貴社には「組織図」がありますか?もしなければ、今すぐ作成することをお勧めします。ここで言う組織図とは大手企業のように部署名だけが書かれているものは少しイメージが違います。
中小企業のように全社の従業員数が少ない場合組織を構成するメンバーひとりひとりの名前も記載しておくことをお勧めします。名前の横に年齢と勤続年数を記載すると組織の現状が一層わかりやすくなります。
例えば、営業部門は若手が多いが、開発部門は高齢化が進んでいるなど組織全体の傾向が見えることでの組織運営に役立ちます。
そして私が中小企業の組織をご支援する際に初歩の段階でとても大切にしているのが「3年後の組織図を描くこと」です。現状の組織図はあっても3年後の組織図が存在する企業はあまりありません。3年後の組織図を書きましょうと言うとほとんどの経営者は驚かれます。
しかしミーティングを通して3年後の組織図が具体的に手がけてくると経営者は近未来の理想が描かれた充実感と自社の現実を突きつけられた不安感で複雑な表情を浮かべるようになります。私はこのプロセスがとても重要であると考えています。未来永劫、安定を続ける企業運営などありえないことは経営者自身が一番わかっていることです。
ですが分かっているがゆえについ目をそむけてしまうのもまた現実なのではないでしょうか。自社の組織が現時点でどうなっているのか、3年後という近未来にどうなりたいか、どうなってしまうのかその現実が見えたときに初めて効果的な具体的行動を起こせるのだと思います。
組織の大きさにもよりますが現在の組織図を作ること、また3年後の組織図を描くことはできれば社長一人で行うよりも経営幹部や信頼のおける従業員を巻き込んで実施することをお勧めします。複数の人間で関わった方が多様な視点を持って会社の近未来を考えることができるはずです。
黒字人材になりうる人材を採用する
会社の未来を考えてどのような人材をどの部署に採用すればよいかある程度イメージが見えてきたらもっと具体的に採用すべき人材について考えてみましょう。採用が厳しいこの時代、思うように採用が進まないとどのような企業の経営者であっても採用すべき人材のハードルを下げようとする気持ちが湧いてくるはずです。その気持は痛いほどわかります。
私がこれまでご支援してきた中小企業でも求人票を出しても人が集まらず仕方なく面接に来てくれたら即採用というケースも少なくありませんでした。ですがその結果、社内の人材や組織はどうなるでしょう?
結局長続きせず、離職者が増えてしまったり、既存の社員に悪影響を及ぼすなど組織が悪い方向に向かってゆくこともあります。
人材獲得にあたっては求める人物の質を落とすことは会社全体の質を落とすことにつながるのでやるべきではないと私は考えています。つまり将来、会社に良い影響を与えてくれる人材、黒字人材になりうる人材に絞って採用をすべきです。
黒字人材4つのタイプ
では、黒字人材とは具体的にどのような人材をさすのでしょうか。黒字人材と聞くといかにもガツガツと売上を上げてくるような人材を思い浮かべるかもしれません。もちろん営業として直接的に売上に貢献してくれる人材も居るでしょう。しかし私は黒字人材とは以下の4つのタイプに分けることができると考えています。
1.リーダータイプ
このタイプは文字通り、リーダーとなってチームメンバーの先頭に立ち組織を引っ張っていけるタイプのことです。経営者としてはそれぞれのチームや部署にリーダータイプの人材がいることで経営者自身の負担が減ることは言うまでもありません。リーダータイプの人間はどこの組織に行ってもリーダーをしている経験が多いのも特徴なので面接で過去の経験を聞いたり立ち振る舞いからも見抜くことは比較的容易にできるタイプかもしれません。
2,広告塔タイプ
広告塔タイプとは主に社外で会社の評判をよくしてくれるタイプです。例えば取引先とのお付き合いで力を発揮できる可能性があります。決して派手ではなくても取引先からとてもよい印象を抱かれるので「お宅のA君はとても真面目で丁寧に仕事をしてくれるね。御社の教育は良くできていると感心しますよ。」などお褒めの言葉にあずかれる可能性もあります。評判や口コミというのは会社に思わぬ良い影響も悪い影響も与えますので、このような広告塔タイプの黒字人材が社内に居ることは中長期的に見てとてもプラスだと言えます。
3.先生タイプ
世の中には教えることに長けた人材がいるものです。例えばスポーツにおいても選手としてはさほど成績を残せなかった人材でもコーチになるととたんに力を発揮するタイプがいます。現役時代に人一倍苦労しているからこそ弱い者の気持ちがわかり、つらい時にはどのような心持ちで仕事をするべきか、スキルアップをするためにはどのようなプロセスを踏めばよいかなど、人に教えることがしっかりと言語化できていることが多いです。
先生タイプの黒字人材は人材育成には欠かせないタイプです。人がなかなか育たないという会社であればこのタイプを将来の人事部の幹部候補生として採用するのも一つの経営戦略と言えます。
4.戦略家タイプ
戦国時代の大名にはいわゆる「軍師」という人物が必ず存在しました。国の覇権争いにおいてどのように戦略を立てどう行動するかを殿様に進言していた人物です。企業においては将来的に社長の右腕になり得るタイプでしょう。
戦略家タイプは冷静沈着で先を見て物事を判断できるタイプなので第一印象は決してよくないかもしれません。ですから面接ではしっかり踏み込んで話をしないと戦略家タイプの人物の良さを見極めるのは難しいかもしれません。ただこのような人物をしっかり見極めて獲得することができると会社の将来に大きな利益をもたらす可能性があります。
黒字人材を採用する4つのメリット
黒字人材を採用することはどのようなメリットがあるのでしょうか?
そのメリットを4つにまとめて考えてみましょう。
1. 採用とは投資である
文字通り、採用とは投資です。経営資源は色々ありますが「人材」という資源の大切さが際立って大きくなっています。並みの人物を十名採用するよりも黒字人材を一名採用した方が会社の将来には必ずプラスになります。パレートの法則という言葉をご存知でしょうか?パレートの法則 (80 対 20 の法則) とは、20% の原因からおよそ 80% の結果が生まれるという現象を表す用語です。
つまりこれを会社の売上や利益と従業員の質に例えて考えるならば、会社の売上や利益は全従業員のうち約2割の優秀な人材から成り立っていると言い換えることが可能です。つまり黒字人材にフォーカスして採用という投資を行うことは会社の増収増益、経費削減に直結するということです。
2.組織全体に良い影響が広がり、組織が一回り成長出来る
黒字人材は組織全体に良い影響をもたらします。逆に言うとよくない人材は組織全体に悪影響を及ぼすということになります。例えば仕事をさぼる癖のある社員が一人いるだけでそれまで真面目に働いていた社員まで急に仕事サボるようになった、という経験はないでしょうか?
黒字人材は結果を良くするためのルーティンを必ず持っているものです。例えばスポーツにおいても結果を出し続けたベテラン選手が結果だけでなく準備の段階から若手選手に良い影響を与えるというのはよく聞く話です。日頃の行動やものの考え方仕事の進め方などについて見て学べる教材があることで組織全体に良い影響が広がり、会社としても一回り成長できる機会になります。
3.社外の評判が良くなり、一目置かれる会社になる
黒字人材は社外の評判も良くしてくれます。黒字人材が直接取引先と触れ合って好印象を持たれることもあるでしょうし、逆に取引先から「最近、お宅は会社の様子がとてもよくなったよね?何かあったの?」などと聞かれることがきっかけに、黒字社員の効果が注目される可能性もあります。
また社長が黒字社員とともに社外の活動に出かけることでなんでそんなに優秀な社員を採用できたかなどと注目を集め一目置かれる会社になれる可能性も充分にあります。
4.10年後も良い人が集まり続ける好循環な社風が出来上がる
黒字社員がもたらす効果は10年後の会社のあり方にまで影響を及ぼします。黒字社員が入ることで社内は様々な角度でこう循環が生まれます。その雰囲気というのは新しく応募してくる人にとってもとても好印象に映るでしょう。黒字社員がさらによい人材を呼び込んでくれる、そんないい人が集まり続ける好循環な社風が出来上がっていくのです。
超黒字人材が集まり続ける5ステップ
ではここからは、具体的に黒字人材を採用するためのやり方について見て行きたいと思います。5つのステップに分けてご説明していますので順番にできるだけステップに沿う形で自社の採用のやり方を考えてみてください。
STEP1.自社の魅力を再発見する
中小企業の特徴のひとつは経営者自身が自分の会社に自信が持てていなかったり自社の強みを理解できていないということがあります。その出現率はとても高く、私が過去にご支援した企業の9割以上が自社に自信が持てていない、自社の強みは魅力をわかっていないという状態でした。
自社の魅力を再発見することで採用活動にとってはたくさんのメリットがあります。応募者の気持ちになって考えていただきたいのですが、経営者や人事担当者が「うちの会社は特に強みも魅力もありません」という会社に入社する動機が生まれるはずがありませんよね?多少大袈裟でも、会社の魅力や強みをはっきりとゆってもらえる会社に入社したいと思うのが自然なのではないでしょうか。
自社の魅力を再発見し同時に言語化できていることで、求人広告を出す際にもとても優位に働きます。これまで以上に応募者が集まるのはもちろん、これまで応募してこなかった人が応募してくるようになる可能性があります。言語化することで経営者はもちろん社内の人間も自社のやっていることに自信が持てるようになるのです。
実はこの自信こそが中小企業にとってもっとも足りないものであり本来持つべきものであると私は考えています。自社に自信が持てれば、求人広告を選ぶ際も無意味な有料広告を使うのではなくたとえ無料の求人広告であっても自社の魅力をはっきりと発信できるようになるはずです。
STEP2.魅力の見える化をする
会社の魅力を再発見することができたならその魅力を見える化しておくことが大切です。見える化とは「キャチコピー」「写真」「動画」の3つを指します。私はこの3つを『魅力を見える化する3種の神器』と呼んでいます。キャッチコピーや画像化はもちろんですが今の時代は特に動画を作っておくことをお勧めします。長編の立派な動画である必要はありません。スマートフォンやパソコンで撮影できる程度の簡易なもので構いませんし、 1分から3分程度の短い動画をいくつか用意しておくことが効果的です。
特に動画が必要な理由は以下の3点にあります。
・若い人材に魅力が伝わるようになる
・誰が伝えても誤差なく魅力が伝わるようになる
・お金を使わずに貴社の求人情報を拡散できるチャンスに繋がる
動画というとハードルが高いと思う経営者もいるかもしれませんが苦手意識があるならば得意な人を探して手伝ってもらうのもよいでしょう。
STEP3.求人媒体テストを行う
採用の質問でよくあるのが「どの求人媒体を使ったら良いですか?」というものです。私は採用活動を行う際、できれば複数の求人媒体を使うことをお勧めしています。それは有料のものを複数出さなくてもよく、有料と無料の求人媒体を合わせて使うことで効果の違いがよくわかります。
つまり求人媒体のテストを行ってほしいのです。いつまでに何件問い合わせがあり最終的に何人採用できたのかというプロセスをしっかり区切って数字で管理しデータを取りましょう。ある企業の例ですが有料の媒体よりも無料の媒体のほうが問い合わせや採用人数も多かったという事例もあります。はじめから何の媒体を使うという「WHAT」の思考でスタートするのではなく、どの媒体がどんな理由で最適なのか、その時の採用職種や採用の時期はどうだったかなど含め総合的にプロセスを見極めて結果を判断する「WHY」の思考を大切にしてほしいと思います。
つまり「WHY」の思考大切にして最適な求人媒体をしっかりした根拠で見つけることができればターゲットとなる黒字人材にリーチできる近道がわかるようになります。
また中小企業にとっては業者の言いなりにならず根拠を持って求人媒体を選択できる大きなメリットを得ることになります。中小企業によっては求人広告の会社を選択する理由が見つからずたまたま縁があったとか価格が安かっただけの理由で選んでいる場合もあるようです。もちろん求人広告の会社の質にもよりますが売上至上主義の会社に当たってしまうと本当に企業の側の立場に立って考えてくれることはなく業者主導で話が進んでいく場合もあるようです。そうならないためにも自社でしっかりと根拠を持った選択ができるよう準備をして行きたいですね。
また「WHY」の思考で求人媒体の選択ができるようになると何十万もどぶに捨てるような残念な思いをせずに、経費削減にとどまることなく人材に投資した分のお金を回収することもできるようになります。
(4) 超黒字人材を射止める
黒字人材が応募してくれるようになったら次はその黒字人材をしっかりと射止めなければなりません。せっかく応募してくれても辞退されてしまってはとても残念ですよね。ポイントは面接のやり方にあります。
超黒字人材の可能性を持った応募者は何らかの理想を持って働いている、また働きたい人物である可能性が高いです。転職を希望し就職活動しているということは理想を現実化できる環境はないだろうかと夢を持って活動している可能性が高いと言えます。これは中途採用のことだけに限ったわけではなく新卒採用の場合でも同様のことが言えます。優秀な学生ほど自分の理想というものを持っているものです。
面接する側としてぜひ大切にしてほしいのはそのような応募者の理想と現実をしっかりとヒアリングするということです。聞き役になりきって余計な口は挟まず応募者にどんどんと話をしてもらいましょう。
そして面接の最後にあなたの理想はうちだったら現実化できる環境があるという話をして相手が目を輝かすことができれば応募者の心は貴社に傾く可能性が高いのです。
そして忘れてはならないのがこの人を採用したいという応募者が現れた時、できる限り接触する回数をたくさん持つということです。これは「ザイオンス効果」と呼ばれるものです。「ザイオンス効果」とは特定の人物や物事に何度も繰り返し接触することで、好感度や評価が高まっていくという心理的傾向を表す言葉 です。この言葉に則るならば面接を1回だけで採用決めてしまうという選考プロセスは根本的に見直した方が良いということになります。
「ザイオンス効果」は必ずしも対面で会うだけが方法ではありません。メールやSNSを通じて接触回数を増やすことでも効果は期待できます。
新卒採用の例をあげてみましょう。学生が最終的に就職を決定するのに必要だったことは何か?というアンケートに対する回答例を見てみましょう。このアンケートの上位の回答を見てみると「懇親会」「現場社員との面談」「見学会」など対面での接触が上位に来ているのと同時に5番目に電話やメールでのフォローという項目が上がっています。
つまり人間は何か重要な決定がされるときあまりに少ない機会や関わりの薄いプロセスであることが大きな不安となって動機が上がらなくなると言うこともできるのです。
STEP5.超黒字人材化する仕組みをつくる
無事に黒字人材を入社までこぎつけた後、もうやることはないのでしょうか?よく釣った魚に餌はやらないという表現がありますが採用に関して言えばそれは大きな間違いということになります。
人間は環境が変わった時、 大きなストレスを抱えることがよくあります。入社後一年は特にコミュニケーションの頻度を上げて接することを実行しましょう。そうすることで早期離職を防ぐ一助になるはずです。具体的には新人に対し教育係をつけることをお勧めします。これはトレーナー制度という人材育成の一環なのですが制度化まではできないという企業であっても新人育成ができそうな先輩を選んで担当者として関わってもらうようにすることは非常に大切なことです。
釣った魚に餌をやらない、という言葉を使いましたが人材についても黒字人材を採用すればそれで終わりというわけではありません。黒字人材はあくまで黒字人材の候補にすぎません。黒字人材化しなければ本当の黒字人材にはならないのです。入社後に黒字人材になるかどうかは採用した企業の責任だと言えます。
できることならば採用した人材をしっかり黒字人材化することを目標にした評価制度を作ることをお勧めします。この内容は次の章で詳しくお伝えします。
人材育成の3種の神器(トレーナー制度、人事評価制度、会議運営)
第二章では人材育成の制度化について詳しく述べています。その前に私が考える黒字人材化のための人材育成の3種の神器とも言える方法をご紹介しましょう。
トレーナー制度
新入社員に対し教育係となる先輩社員をつける制度です。トレーナー制度を実施する上でポイントをあげてみます。
まず新入社員をしっかり指導できそうな先輩社員を選ぶことです。間違っても悪影響を及ぼしそうな社員をつけてはなりません。
次にトレーナー制度は全社をあげて取り組む意識を持つことです。先輩社員を付けたからそれであとお任せというのではなくチーム全体組織全体で常に見守って行ける仕組みや雰囲気を作ることです。新入社員だけでなく指導する先輩社員も大きな負担を背負うことになります。最近では後輩の価値観や仕事観が理解できずにトレーナーである先輩社員が精神的にまいってしまう事例も数多く見受けられます。トレーナー自身が一人で抱え込むことなく新人の教育について相談できる窓口をいつも開けておくことがとても重要です。
人事評価制度
人事評価制度というと中小企業の場合、昇給や賞与の算定に使われることが多いようです。しかし人事評価制度は本来人材育成に使ってこそその意味を発揮するものなのです。重要なのは現場に見合った評価項目と評価基準が明確に示されていることです。
評価項目と評価基準が現場にマッチしたものであると評価される側もする側も同じ目標に向かって仕事内容を検証することができます。つまり自分の仕事がどこができていてどこができていないのか、この先具体的にどのように仕事を進めれば自分がもっと成長できるのか、ここが明確になるのです。そうすることで黒字人材は目標に向かって強く前進することができ会社としても黒字人材化を実現する道しるべになります。
会議運営
無駄な会議は省いた方が良いのですが会議を効果的に使うことで人材の成長を促すことが期待できます。例えば同じ立場や年齢の近いものだけを集めてリーダー会議を実施するなども若手人材を黒字人材化させるにはとても良い方法です。
ただ会議運営にはしっかりとしたルールを作っておくことをお勧めします。
・事前に会議のテーマを提出させる
・議長書記など役割を事前に決めておく
・決定した事柄を実行する責任者を必ず決めて終える
・決定事項は次回の会議で進捗状況を必ず確認する
・決定事項が実施されていない場合一人を責めるのではなく会議の参加者全員でどうすれば実行できるのかについて議論する
これは一例ですがこのようにしっかりと会議のルールを作って運営することが重要です。また誰かを責める場にするのではなく参加者全員でどうすればできるのか自分事として他人の悩みを考えられるようにすることで若手人材の成長を促す場にできるはずです。ただお互いの悩みの傷の舐め合いの場にはならないように注意が必要です。
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