第三章【育成風土の醸成】
風土とは何か?
構成人数が多くても少なくて組織である以上、個性が発生します。広辞苑によれば風土とはもともと「その土地の気候・地形・地質など、住民の生活・文化に影響を及ぼす自然環境」という意味です。また組織とは同じく広辞苑によれば「ある目的を達成するために、分化した役割を持つ個人や下位集団から構成される集団」だそうです。
つまり組織風土とは「組織を構成するメンバーの間で明確化され、共通認識となっている独自の価値観やルール、考え方」ですので育成風土とは簡単に言えば「企業内で共通認識となっている人材育成に関する独自の価値観やルール」ということになります。
問題はこの風土というものが組織を構成するメンバーたちが意図して成り立ってゆくものではなく、ある意味自然発生的に出来上がってしまうものだと言うことです。例えば部下が上司の顔色をうかがってしまう組織風土は組織を構成するメンバーが意図して作り上げているわけではなく気がつくと組織全体が上司を忖度する価値観や習慣が出来上がってしまうということになります。
誰も気がつかずに出来上がってしまった風土はそれが良くないものだとしても最悪の場合、よくないことにさえ気がつかずなれあいのまま進んでいってしまう特徴があるのです。つまり悪循環のモデルが社内に出来上がってしまうということです。
悪循環のモデルはあっという間に出来上がりますが、好循環のモデルは構築するのに時間がかかります。ただ時間をかけて好循環のモデルをコツコツと作り上げてゆけば、それはとても崩れにくいよい社内の風土になります。
黒字人材を狙い撃ちしてやめさせないという好循環を作るためには、まず人材を採用するという入り口の段階から仕組み化を実施する必要があります。そして入社した人材を放置することなくしっかりと黒字人材化する人材育成の制度を構成します。その仕組みや制度を従業員が正しく運用し続けることで、ゆっくりとでも着実に人材を育成するマインドが風土化して行くということになります。
信じてやり抜く
企業内に育成風土を醸成するためには相応の時間がかかります。はじめは従業員からの反対があったり、思ったよりも良い反応がなかったり様々な壁が現実化することになるでしょう。ただ人材育成で最も大切なのは長期的な視点を持って諦めずにやり続けるという経営者の姿勢にほかなりません。経営者自身がこのやり方であれば絶対に人は育つという信念を持って信じてやり抜くことが人材育成を成功させる肝になります。
選ばれる企業になるために
高齢化社会が叫ばれ少子化がますます拡大する中で日本の国力自体も世界から遅れをとっているという報道も耳にするようになりました。他にも物価の高騰、地球温暖化の問題、さまざまな有事に対する懸念など取り巻く環境は厳しさを増すばかりです。特に資金力や労働力で劣る中小企業にとっては企業の存続自体が危ぶまれるような厳しい時代がこの先も待っています。
これまでは採用するときも企業は応募者を選考する、つまり企業が応募者を選ぶ時代だったかもしれません。しかしこれからは企業が応募者に選ばれる時代だと考えて間違いありません。すでにそうなっています。企業が応募者に選ばれるという視点を経営者自身が受け入れない限り、企業の発展や成熟成長はないと私は考えています。
中小企業はもっと人に対する投資に関心を持つべき
社内の人材育成に関する質の良し悪しは単純に良い人を獲得して社内の構成人員を整えるというだけの問題ではなく、結局は社内組織の良し悪しが社外の評判にも伝わり企業の営業活動においても、取引先から選ばれるかどうかの問題に大きく関わってくるはずです。中小企業の良さは大手企業に比べて小回りが利く点にあるはずです。企業が投資すべき要素はたくさんありますが中小企業はもっと人に対する投資に関心を持つべきだと私は思います。
選ばれる企業になるためにこれからの時代ますます人の重要性が増すことになるので今、まさにこの瞬間から黒字人材を狙い撃ちして辞めさせない仕組みを作り育成マインドあふれる企業風土を醸成するために第一歩を踏み出しましょう。
エピローグ
私がなぜ従業員50名以下という小規模の中小企業に特化して人材の採用や育成に関するアドバイスを送る仕事をしているのでしょうか。私はもともと巨大な組織や絶対的存在といったものにあまり価値を感じないタイプでした。その理由は自分ではよくわかりませんが自分自身が幼少期から体が弱く生きるのに必死な少年時代を過ごしてきた経験があるからかもしれません。
大学時代軟式野球の部活をやっていた私は引退後に紅白戦でレギュラーではない低学年チームの采配を振るう機会がありました。どう見てもレギュラーチームが強いのですが、なんとか戦術を駆使してレギュラーチームに一泡吹かせてやりたいという欲望がフツフツと心の底から湧いてきたのです。その体験こそが私の価値観をよくあらわした出来事だと思います。
資金力や労働力に乏しい中小企業だからこそやり方や工夫によって大手企業にも劣らない魅力ある企業を作ることができるのではないか。そんな構想を抱いているのです。おそらく時代は成長よりも成熟に価値が置かれることでしょう。少なくとも今の若者は売上至上主義的な価値観にはあまり共鳴せず、社会貢献度や企業が存在する意味や価値などについて重視する傾向が顕著になってきています。
そのような時代背景に応えるべく中小企業はむやみな拡大路線を目指すのではなくじっくりと企業価値を成熟させるそんな価値観こそが受け入れられる時代になっていると思います。貴社がどこの会社にも真似できないオンリーワンの価値を持った企業になれることを心より願っております。
コメントをお書きください